やせっぽち寄稿文

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【米津玄師/海の幽霊】 歌詞の意味を考察!「大切なことは言葉にならない」の真意に迫る

米津玄師「海の幽霊」

映画「海獣の子供」の主題歌として注目を集めている、夏の思い出を美しく描いた楽曲です。

「大切なものは言葉にならない」。

この言葉に込められた、彼の思いとは一体何なのか。

ここでは歌詞の意味を徹底的に分析していきます。

 

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歌詞解釈

この楽曲の歌詞は「海獣の子供」のストーリーと密接に結びついているものと思われますが、ここでは歌詞解釈として、映画とは多少の距離を置いて考察させていただきます。

 

1番

開け放たれた この部屋には誰もいない
潮風の匂い 染み付いた椅子がひとつ
あなたが迷わないように開けておくよ
軋む戸を叩いて
何から話せばいいのか わからなくなるかな  

 海の幽霊 作詞 米津玄師

海沿いに建てられたある家。あなたはいない。あなたが迷わず帰ってこられるように、戸は開けておこう。

ここでは漠然とした表現で歌詞の世界観が表出。

「潮風の匂い 染み付いた椅子」という描写は家が海沿いにあることを、「あなたが迷わないように」「何から話せばいいのか わからなくなるかな 」 という表現は「あなた」と長らく会っていないことを暗示しています。

徹底して直接的な表現を避けるこの歌詞は、楽曲「海の幽霊」の中心となる世界観に沿ったものだと考えられます。詳しくは後述。

 

 

星が降る夜に あなたにあえた
あの夜を忘れはしない
大切なことは 言葉にならない
夏の日に起きたすべて
思いがけず光るのは 海の幽霊

  海の幽霊 作詞 米津玄師

夏の日、あなたと過ごしたあの夜を忘れはしない。

出来事は過去の話であり、「海の幽霊」とあることから、「あなた」はすでにこの世にいない存在なのかもしれません。

 

そして特に印象的なのが「大切なことは言葉にならない」という歌詞。

ここでは「夏の日に起きたすべて」の詳細や、主人公の心情の描写などすべてが放棄されています。言葉は不完全で、その全てを伝えるには不十分だから。

しかし米津さんはそのどうしようもない感情を逆説的に表現して見せました。

「大切なことは言葉にならない」。

「大切なこと」を言葉で描写するのではなく、あえて「言葉にならない」とその限界を明言することにより、言葉では表しようもない感情、情景の”存在”を表現することに成功しているのです。

言葉での、言葉の限界を超えた表現とでもいうのでしょうか。

これこそがこの楽曲の、「言葉で言い表さない」という世界観。

サビは、一気に地上から海底へと引き込まれるような、荘厳なメロディと米津さんの美しいファルセットで奏でられます。それだけで、「大切なこと」自体を形容するのには十分なのかもしれません。

 

続けます。

 


 

2番

うだる夏の夕に 梢が船を見送る
いくつかの歌を囁く 花を散らして
あなたがどこかで笑う声が聞こえる
熱い頬の手触り
ねじれた道を進んだら その瞼が開く  

 海の幽霊 作詞 米津玄師

 海辺で木々は、風に揺られ音を立てながら花を散らす。ふいに「あなた」のことが思い浮かぶ。

ここでは一番同様、再び間接的に情景が描写されます。

どんな場面で、どんな感情であなたの頬に触れたのか、という情報をそぎ落とし、あなたと過ごした情景に言葉にできない奥行きを持たせているのです。

そして「ねじれた道を進んだら その瞼が開く」と、次第に主人公の記憶が「あなた」へと近づいていく様子が表現されています。

 

サビに向けて間奏では、トンネルから抜けるように、一気に開放感あふれるサビへ突入していくことから、サビこそが「ねじれた道を進んだ」先、つまり「あなた」との記憶に行き着いた瞬間であるように思います。

 

 

離れ離れでも ときめくほど
叫ぼう「今は幸せ」と
大切なことは言葉にならない
跳ねる光に溶かして

 海の幽霊 作詞 米津玄師

 離れていても、幸せだと叫ぼう。「大切なこと」は言葉にせずに。

先ほどの歌詞が「夏の夕」でしたから、ここでは時間が経過しており「跳ねる光」は水面に移る星明りと考えるのが自然でしょう。

記憶があなたにたどり着いたときに伝えるのは「今は幸せ」という事実だけ

「あなた」を思うと溢れ出す感情を、言葉なんて不完全なもので表すことは不可能なのかもしれません。

 言葉で伝えられる情報の限界を知ったうえで、離れ離れの相手を思っての心からの「今は幸せ」。この上なく美しい言葉です。

 

星が降る夜に あなたにあえた
あの時を忘れはしない
大切なことは 言葉にならない
夏の日に起きたすべて
思いがけず 光るのは 海の幽霊  

 海の幽霊 作詞 米津玄師

 そして再び「あの時」を回想。「あなた」と過ごした夏の思い出は、すべて「大切なこと」であり、言葉でなど表せないのです。

 

 


 

風薫る 砂浜で
また会いましょう

 海の幽霊 作詞 米津玄師

最後の歌詞。

「あなた」 と再び会うことは叶わないのかもしれません。

また会おう、そして「大切なもの」をまた作ろう。

そんな願いが込められているのではないでしょうか。

 

 

まとめ

「大切なことは言葉にならない」

それはすなわち、人間の伝達の限界を意味します。

「海獣の子供」には、「思っていることの半分でも、伝えられた試しがあるかい?」という言葉があるそうです。

言葉は全く完璧ではありません。混沌とした全ての感情、情景を描くことなど不可能です。どんな言葉で表そうが、それをどんなに艶やかな言葉で飾ろうが、それは物事の全てではなく、どうしても薄っぺらいものになってしまいます。

しかし、米津玄師さんはそのどうしようもない感情を見事に表現してみせました。

「大切なことは言葉にならない」

「言葉にならない」と表現することで、その人間の伝達の限界を明言することで、言葉の表現の限界を超えた「大切なもの」の存在を見事に表したのです。

それを飾るのは、言葉ではなく、彼の音楽の圧倒的な世界観で十分なのではないでしょうか。

その上でなんとか表現できる「今は幸せ」という言葉を「あなた」に送った。「大切なこと」を言葉で表すのをやめた米津玄師の送る、この上なく美しい言葉です。

 


 

楽曲のデジタルリリースは6月3日、映画公開は6月7日。

海の幽霊

海の幽霊

  • 米津玄師
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

 

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