2019年5月12日配信シングル、ゲスの極み乙女。「秘めない私」。
ワイヤレスイヤホンブランドAVIOTとのタイアップ楽曲でもある今作は、Vo.川谷絵音とDrs.ほないこかのツインボーカルで歌いあげられるアダルトな一曲に仕上がっています。天才・川谷の放つ、異質で猟奇的な恋の歌。
YoutubeにはMVも公開中です。
歌詞解釈
この曲の特徴は、独創的で異質な、噛んでもそう簡単に呑み込めない世界観。
一貫してプライド高めな女性目線で、明らかに通常のテンションではなく、深夜のテンションで歌いあげられるような、そんな独特の雰囲気を帯びています。歌詞の内容としては自己肯定中心ですが、選ばれる単語の一つ一つがどこか猟奇的。奇才・川谷絵音のワードセンスが輝きます。
一番から細かく歌詞を見ていきます。
1番
ランちゃんバンバン CUTE
苦労人人人
名探偵の嫁と同じ名前
パララッパラッパッパ
主役にしちゃ
パララッパラッパッパ
弱過ぎるけど
ゲスの極み乙女。「秘めない私」 作詞 川谷絵音
主人公の女性の名前はラン。名探偵コナンのヒロインと同じ名前だけれど、主役になれるほどのスター性はない。そんな劣等感。
歌詞で主人公に名前が与えられることは非常に珍しいことなのですが、この具体性が曲の妙なリアルさと、ヒロインになれない劣等感を演出しています。
また、「バンバン CUTE」「パララッパラッパッパ」と、意味のない言葉でリズムがとられることでなんだか酔っぱらっているような、ただならぬ狂気が生まれます。
余談ですが、厳密には名探偵コナンのヒロイン、蘭は工藤新一の彼女であって嫁ではありません。
クオリティ重視のアニメーション
私の顔面じゃ荷が重過ぎルンルン
漫画でもアニメでも役に立たない
だから変わった人になってみるの
ゲスの極み乙女。「秘めない私」 作詞 川谷絵音
真っ当に生活したって、クオリティ重視のこの世界ではランみたいなヒロインにはなれない。 だったら、変わった人になってやる。
ここでも、比較対象として「蘭」があるからこそ、アニメや漫画というシチュエーションが自然に耳に残ります。「重すぎルンルン」という表現もまた狂気的。
ここまでがいわば導入部分。物語でいう「起」と「承」にあたります。ここから、さらなる「猟奇的」な世界観が導入されます。
ウーパールーパールーパー映像
みたいな奇抜さが欲しいグーパーグーパーグーグーパー
あなたはチョキグーチョキグーチョキチョキグー
ゲスの極み乙女。「秘めない私」 作詞 川谷絵音
とにかく奇抜に、人の上に立って生きてやる。
簡単に要約すればそれだけなのですが、その表現の仕方に得も言えぬ異物感を覚えるのは私だけではないでしょう。
「グーパーグーパーグーグーパー あなたはチョキグーチョキグーチョキチョキグー」。女性が全部勝っています。ここなんか、「全部私の勝ちよ」くらいの歌詞でまとめられるはずなのに、あえてそれをせず、誰も真似できない狂った比喩で表現。これがさきほどまでの意味のない歌詞と相まって、絶対的な独創性を確立しているわけです。
秘めない 秘めない
喉仏が刺さる
苦しいけど身長差が嬉しいの
噛みたい 噛みたい
キスより猟奇的
間違いない恋がしたいなら他を当たってちょうだい
私は強気よ
弱気はあなたよ
ゲスの極み乙女。「秘めない私」 作詞 川谷絵音
そしてとどめのサビの歌詞。
キスの場面でも男を噛んでやりたいほど、私は強気。はなっから普通の恋なんかしたくない。
シンプルに狂気が滲んでいて猟奇的です。ここまでの異物感があるからこそ、「間違いない恋がしたいなら他を当たってちょうだい」という言葉の鋭さに磨きがかかります。
そして極め付きはそのメロディ。Ba.休日課長のベースラインを全面に押し出し、スラップ奏法でドラムの代わりにビートを刻むという、わけのわからない芸当を平然とやってのけます。このベースラインが抜群にエロい。歌詞関係なく、これだけでこの曲の異端さは際立っています。
2番
ランちゃんバンバン CUTE
苦労人人人
名探偵の嫁と同じ名前ラジオネーム「ランタンタン麺」
恋のお悩みを辛口相談
理論武装をしながら背中はガラ空きなんだって
まあそんなもん
ゲスの極み乙女。「秘めない私」 作詞 川谷絵音
2番のAメロ。
主人公のラジオネームは「ランタンタン麺」。言葉だけ見れば大層なものだけど、実際中身は伴っていない。
この曲の、狂気の中の妙なリアリティはここからもあふれてきます。ラジオネーム「ランタンタン麺」。絶妙な語感の良さもさることながら、そのいかにもありそうな現実感がここに放り込まれることで世界観が現実世界に押し込まれていきます。
この主人公が終始「無敵のヒロイン」ではないこともポイント。散々狂ったことを歌っておきながらも、背中はがら空きで役に立たない女性であり続けている。ここに、聴き手のシンパシーを引き離さない仕掛けがあるように思います。
(中略)
win win night win win night
恋をしたならダンシング
サイバーな雰囲気の映像美とね
攻めたい 攻めたい
キックボクシング練習
間違いない恋がしたいなら他を当たってちょうだい
私は強気よ
弱気はあなたよ
ゲスの極み乙女。「秘めない私」 作詞 川谷絵音
とにかく猟奇的な恋がしたい。
本当に歌っていることはそれだけなのですが、むしろそれだけで十分すぎるような印象さえ受けます。ただただ狂気だけがあふれる歌詞の世界観。メロディラインの奇抜さだけでサビの歌詞を補足するには十分なのです。
届かない夜ならいらない
テンション高めでやや安定な
私じゃつまんない
ゲスの極み乙女。「秘めない私」 作詞 川谷絵音
満たされないくらいなら初めから無い方がいい。安定なんか求めていない。
ここでCメロが登場します。Ba.休日課長の低音ボーカルなのですが、ここまでの高音のサビとの対比によりこれまた異彩を放っています。
秘めない 秘めない
喉仏が刺さる
おかしい おかしい
と思われるくらいがちょうどいい
ハヤブサの様な恋は
猛マッハで猟奇的
間違いない恋がしたいなら他を当たってちょうだい
私は強気よ
弱気はあなたよ
ゲスの極み乙女。「秘めない私」 作詞 川谷絵音
ラスサビです。
はたから見れば狂っていると思われるくらいがちょうどいい。猛烈で、猟奇的な恋がしたい。
ここまでのメロディでも十分すぎるほどに猟奇的だったのですが、ここでさらにヒートアップ。「Lalala...」という艶やかなコーラスが挿入されることで、より一層エロさに磨きがかかります。ここまできて、まだ引き出しがあったのかという衝撃。底なしの異物感と、得も言えぬ狂気が最後まで尽きることなくあふれています。
まとめ
この曲の最大の魅力は、そのどうしようもない異物感。既成概念では飲み込むことのできない、彼らの言葉を借りるならば「猟奇的な」世界観がここに成立しています。
歌っている内容自体は、普通ではないにしろさほど異質なものではありません。「普通の恋はしたくない」。ただそれだけです。
それがこのように形容しがたい狂気を帯びた楽曲になるのは、奇才・川谷絵音のワードセンスあってこそではないでしょうか。
劣等感を抱える女性を「名探偵の嫁と同じ名前」、男性に対しマウントをとろうとする姿勢を「グーパーグーパーグーグーパー あなたはチョキグーチョキグーチョキチョキグー」と言い換えるなど、他のアーティストがまず成しえない規格外の比喩を平然とやってのける。さらには「パララッパラッパッパ」のような意味を持たない単語でリズムを付けることで独自性を打ち立ててくる。
一昔前の米津玄師やSEKAI NO OWARIのように、ファンタジーの世界であることを曲の冒頭で示すことで曲の異質さを示すケースはしばしば見受けられるのですが、この楽曲のように奇を衒った狂気をさも当然のごとく押し付けることのできるアーティストはそういないのではないでしょうか。
メロディだって、ギターレスでかつドラムを極端に簡素化しているにもかかわらず、ベースでビートをとり、巧みに曲の重厚感を出すなど、どう考えたって普通ではありません。
天才・川谷絵音により作り上げられた、可憐なる狂気。猟奇的な、新時代のラブソングがここにあります。
本楽曲は配信限定シングルです。
ダウンロードはこちらから!
https://itunes.apple.com/jp/album/himenai-watashi-single/1459869564?app=itunes
おすすめ記事はこちら
【歌詞解釈】King Gnu『白日』 感想と歌詞解釈!平成最後の傑作 - やせっぽち寄稿文