あいみょん『さよならの今日に』。
「どこか”じぶんごと”な気がするものではあってほしい」という思いを込めて製作された「news zero」テーマソングです。
現在YouTubeではvery short movie が公開されています。
あいみょん より さよならの今日に 【very short movie】
《それでもどこかで今も 求めているものがある》
過ぎ去った日々をやり直せたりなんかしないし、後悔しても何も変わらない。それでもどこかで、此処にはない何かを必死に求めてしまう。
そんな私たちは一体明日をどう生きればいいんだろう。そんな誰しもが他人事にはできない、答えの無い問いをふと投げかけたあいみょんらしいナンバーです。
ここでは歌詞に注目して楽曲の魅力を紐解いていければと思います。
歌詞解釈
1番
泥まみれの過去が纏わり付く日々だ
鈍くなった足でゴールのない山を登る
恋焦がれたこと 夢に起きてまた夢みたこと
これまでを切り取るように頭の中を巡る
人はいつだって、過去の思い出やトラウマに囚われながら今を生きています。
あの日の恋を振り返り、昔の夢を掘り起こしては、無性に懐かしくなったり時には後悔したり。もしもあの時に戻れたら。そして歳を重なるにつれ振り返るべき過去は大きくなっていき、今の私たちに纏わりついてきます。
そんな日々鈍くなっていくこの足で、私たちは人生を歩んでいくのです。
明日が来ることは解る
昨日が戻らないのも知ってる
できればやり直したいけれど
切り捨てた何かで今があるなら
「もう一度」だなんてそんな我儘
言わないでおくけどな
さよならの今日に あいみょん
彼女の楽曲は、ありもしない理想を追いかけたりはしません。《明日が来ることは解る 昨日が戻らないのも知ってる》。誰かに言われるまでもなく、過去が戻らないなんて現実はわかっているんです。
もしできることならもう一度今日をやり直したい。だけど、何かを切り捨てた過去があるから今があるというのなら、やり直したいなんてのは我儘だ。
私たちは理屈ではそんなことわかっています。しかしそれでも過去を悔やんでしまうのが人間というものです。
それでもどこかで今も
求めているものがある
不滅のロックスター 永遠のキングは
明日をどう生きただろうか
さよならの今日に あいみょん
たとえ明日が来ることを解っていても、昨日が戻らないことを知っていても、それでもどこかで求めているものがあるのです。もしもあの時ああしていれば。あの頃にもう一度戻れたら。切り捨てた何かを今日も私たちは悔やみ続けています。
《切り捨てた何かで今があるなら「もう一度」だなんてそんな我儘 言わないでおくけどな》
だけど切り捨てた何かで今があるなんて思えない自分がどこかにいるから、こんな我儘を今日も言ってしまうのです。
《不滅のロックスター 永遠のキングは 明日をどう生きただろうか》
あいみょんの歌詞でたびたび登場する ”ロックスター”。彼女の憧れの象徴です。ただし《明日をどう生きただろうか》という歌詞からも読み取れるように、今はもう墓の中。《永遠のキング》も同様に、きっと今は亡き英雄なのでしょう。
そんなスターたちは、明日をどう生きたのだろう。
どうしても過去を悔やんでしまうのが人間なのに、それでも容赦なく訪れる”明日”を彼らはどう生きたんだろう。日々鈍くなっていくこの足で、”明日”をどう生きたのだろう。
誰に尋ねるわけでもなく、ふとそんなことを考えてみるのです。
2番
傷だらけの空がやけに染みてく今日
鈍くなった足で河川敷をなぞり歩く
荒んだ心のように荒れた空模様を見て、やけにセンチメンタルになる今日という日。
もしも生まれてきた時の真っ新な心だったなら、そんな空を見てもきっと何も感じないはずです。心が荒むような辛い過去があるからこそ、そんな空模様が心に染みるのです。
日々鈍くなっていくその足で、今日も河川敷をなぞり歩きます。
絶えず新たな水が流れ、元の水が流れることなどない川と、戻ることなどできない人生を重ね合わせているのかもしれません。
涙が出ることはわかる
気持ちが戻らないのも知ってる
それならやめてしまいたいけれど
辛いことがあれば涙が出る。恋が冷めてしまえば気持ちが戻ることはない。
私たちはとっくにそんなことわかっています。わかっているから、それならいっそやめてしまいたい。つらい経験を伴う挑戦も、誰かを愛することも、明日を生きることもやめてしまいたい。
《それならやめてしまいたいけれど》
そうは思っているけれど、やめることもできないのが人間です。
殘された何かで今が変わるなら
「もう一度」だなんてそんな情けは
言わないでおくけどな
それでもどこかで今も望んでいることがある
伝説のプロボクサー 謎に満ちたあいつは
明日をどう乗り越えたかな Ah....
過去の辛い思い出で今が変わるとは信じきれない。いっそ全てをやめてしまいたい。
そうわかっているけれど、それでも何かを望んで生きてしまう自分がいるのです。いつかは後悔することになるとわかっていても、何かを追い求めている自分がいるのです。
伝説のプロボクサー。謎に満ちたあいつ。
一体彼らは、この葛藤の中で明日をどう乗り越えたんだろう。
答えのなどどこにも無い問いを必死で追いかけています。
3番
吹く風に任せ 目を閉じて踊れ
甘いカクテル色の空を仰げ
そんな声が聞こえる
吹く風に身を任せろ。目を閉じて踊れ。
難しいことなんて考えず、過去なんか悔やんでないで、もっと甘い未来を見つめていこう。そんな声がどこからか聞こえてきます。
きっとこれがすべての答え。そうやってあっけらかんに生きていれば、きっと傷つくことなんてないのです。
だけどすべてを諦めきることなどできないのが私たち人間。
切り捨てた何かを拾い集めても
もう二度と戻ることはないと
分かっているのにな
もう切り捨ててしまった過去をどれだけ悔やんだって、必死に拾い集めたって、もう元になんか戻りません。そんなこと諦めて、吹く風に身を任せてやれば楽に生きられる。そんなこともう分かっているんです。だけど、過去を悔やむことをやめることなどできるはずがないのです。
切り捨てた何かで今があるなら
「もう一度」だなんてそんな我儘
言わないでおくけどな
それでもどこかで今も求めているものがある
不滅のロックスター 永遠のキングは
明日をどう生きただろうか
伝説のプロボクサー 謎に満ちたあいつは
明日をどう乗り越えたかな
風の吹くまま生きることも、過去に意味を見出すこともどうしてもできず、どこかで今も過去を追い求めてしまう。やめることもできず、また今日という日が終わっていってしまう。
こんな私は、一体明日をどう生きていけばいいのだろう。
どう乗り越えればいいんだろう。
あの英雄たちは、謎に満ちたあいつは、一体どうしていたのだろう。
さよならの今日に、1日の終わりに、そんなどうしようもない問いを彼女は投げかけているのです。
感想・まとめ
人間の人間らしい感情がありのまま描かれた、いかにもあいみょんらしい楽曲です。
過去が戻らないのなんて知ってる。切り捨てた何かで今がある。だからもう一度あの時に戻れたら、なんてのはきっと我儘だ。
だけどそれでも、私たちはどこかで求めてしまうのです。もしあの時ああしていれば。もしもあの時勇気があれば。切り捨てた何かを、これから切り捨てるかもしれない何かを、私たちは必死に追い求めています。
『さよならの今日に』は「news zero」エンディングテーマ。番組で曲に乗せ、ニュース映像が流れると私は胸が締め付けられます。大切な人の死を悲しむ人々。取り返しのつかない罪を犯した人気女優。どうしても考えてしまうのです。もしこんなことが起こっていなければ。もしもう一度今日をやり直せたら。そんな願いは我儘だってわかっているけれど、考えずにはいられないのです。
私たちが願おうと願うまいと、明日は必ずやってきます。そしてどれだけ必死に願おうと、昨日は二度と戻っては来ません。そんなこととうに解っています。
憧れ続けたあのロックスターは、民衆を導いたあのキングは、一体明日をどう生きたんだろう。
『さよならの今日に』。
今日という一日の終わりに、彼女はそう投げかけています。
決して他人事ではなく、他でもないあなたに、そう問いかけているのです。
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