2019年8月9日配信開始、King Gnu「飛行艇」。
「カッコいい」という言葉を具現化したような、最高にクールなロックサウンドに胸を打たれた人は数知れない。
配信直後にはiTunes Store総合ランキング、LINE MUSICリアルタイムランキング、AWA THE HOT 100ランキングで軒並み1位を獲得。まさに破竹の勢いで音楽チャートを飛翔中である。
しかし、なぜ「飛行艇」はこれほどまでに「カッコいい」のか。
なぜこれほどまでに人々の心を揺さぶるのか。
この記事では、その理由に徹底的に迫っていきたい。
ワンピース的な構図
まずこの曲の1つのトリックは、私たちの生きる現代社会の風潮をしれっと「正義のつまらない役人」に仕立て上げ、King Gnu、そして聴く者すべてを「悪のヒーロー」に作り替えているところである。もっとも、トリックなんて言葉を使うほど巧妙な手口ではないのだが。
どんな夢を見に行こうか
正しさばかりに恐れ戦かないで
飛行艇 作詞 Daiki Tsuneta
曲冒頭の歌詞だが、この歌詞だけでも社会の「正しさ」に屈することなく突き進もうとするKing Gnuの姿勢がうかがえる。世間一般の正義なんてものに縛られることなく、夢を追いかけようとする在り方である。いわば「悪のヒーロー」の生き様だ。
この姿勢は、楽曲のいたるところで見受けられる。
この時代に飛び乗って
今夜愚かな杭となって
過ちを恐れないで
命揺らせ 命揺らせ
飛行艇 作詞 Daiki Tsuneta
特に顕著に表れるのが2番のサビだ。
「今夜愚かな杭となって」と、自分たちが社会的に馬鹿げた存在であることを高々と明言。断じて「正義のヒーロー」ではない。
その上で、「命を揺らし、過ちを恐れず突き進め」と謳われているのだ。
さらに随所に現れるのが、現代社会の「正しさ」を盛大に皮肉った歌詞である。
代わり映えしない日常の片隅で
無邪気に笑っていられたらいいよな無意味な旅を続けようか
ワン・バイ・ワン
一歩ずつでいいさ
歓声も罵声も
呑み込んで
飛行艇 作詞 Daiki Tsuneta
2番冒頭からの歌詞。「無邪気に笑っていられたらいいよな」なんて歌ってはいるが、あからさまに他人事であり、あくまで自分たちは「無意味な旅」を続ける、と記している。もちろんこれは「社会的に見れば」無意味な旅であって、本心から無意味だとは思っていないのは明らかだ。
こうして歌詞を見ればわかるように、どことなく「社会一般の正しさ」を軽蔑して、正しくはないかもしれないが夢を追いかける自らの姿勢を肯定的にとらえている。
社会の正しさはつまらないもので、自分たちは大空を飛び回る「愚かな杭」なのだ。
言うなれば「ONE PIECE」的な構図である。
ここに、私たちの心を揺さぶる1つの原因があるように思う。
人々の、どこか社会に窮屈さを感じている心に訴えかけるのである。「代り映えしない日常」に満足できない私たちの心に。
そして人々は、この曲を聴いている間だけ社会に対する「反逆者」になりきれる。これがたまらなく爽快なのだ。
ブラックジャックだって、ルパン三世だって、ワンピースだって、主人公は社会的には悪役だ。しかし、ブラックジャックやルパンが逮捕される姿をだれも望んではいない。ルフィが海軍に見るも無残に敗れる姿など誰も見たくはない。
それはなぜか。彼らがたまらなく「カッコいい」からだ。
窮屈な社会の「正しさ」に屈することなく、果敢に立ち向かうその姿が「カッコいい」のである。
まさにその理屈と同じ「カッコよさ」がこの曲にはあるように思う。
タイトルとサウンドの「カッコよさ」
「飛行艇」というタイトル、そして超縦ノリのサウンドがまたその「カッコよさ」に油を注いでいる。
飛行艇は直接水に浮かび発着する大型の水上飛行機のことだが、技術の向上で陸上航空が発達した今、利用されることなどほとんどない。
いうなれば過去の産物であって、今見ればそれはダサくて不格好なものかもしれない。
しかし、それこそが最高に「カッコいい」のだ。
彼らの飛び方が、美しくスマートな航空機であっていいはずがない。社会の「正しさ」や「常識」では評価できない、愚かさがあるからこそ「悪のヒーロー」としての「カッコよさ」が生まれる。
「飛行艇」というタイトルは、この曲の生き様そのものなのである。
サウンドだって、エフェクターで歪みまくったギターとベースで奏でられていて、お世辞にも美しくて透き通った音楽ではないだろう。でも、それがいいのだ。
この曲が社会の常識にとらわれていてはいけないのだ。
普通ではないからこそ、それは「カッコいい」し、私たちの命を揺らすのである。
ラスサビで見せた変化
この風に飛び乗って
今夜台風の目となって
大空を飛び回って
命揺らせ 命揺らせ
飛行艇 作詞 Daiki Tsuneta
1番のサビを引用するが、この部分だけでなく、この曲のほとんどの歌詞は命令口調である。
これにより小気味のいい独特のリズムが曲にもたらされているのは間違いないが、こうも命令口調だらけだと普通、聴き手に飽きられてしまったり、他人事のように聞こえてしまったりするのではないだろうか。歌詞が単調になってしまいがちだからである。
しかしながら、この曲は聴き手を引き付けて決して離さない。他人事だと思わせることもない。そこには、1つのポイントがあるように思う。
貴女の期待に飛び乗って
今夜この羽根で飛びたくて
この大空を飛びたくて
命生まれ 命生まれ
飛行艇 作詞 Daiki Tsuneta
ラスサビの歌詞。ポイントとして、この曲はこの部分だけが、命令口調や皮肉ではなく率直な願望なのだ。聴き手が唯一、主観的に捉えることのできる歌詞なのである。
しかも「命生まれ 命生まれ」ときた。「命ってそういうものだろ?」と訴えかけてきたのだ。社会の「正しさ」に恐れ戦くのなんて生きてる意味がないだろ?と。
これだけで、曲の印象は大きく変わる。
それまではKing Gnuに感化されているだけだった聴き手が、一気に楽曲の主人公へと昇華するのである。一気に、ヌーの大群に引き入れられるのだ。
当然のように見えて、この聴き手への小さな気遣いが、案外この曲の要なのかもしれない。
まとめ
この時代に飛び乗って
今夜この街を飛び立って
大空を飛び回って
命揺らせ 命揺らせ
飛行艇 作詞 Daiki Tsuneta
この街を離れ大空を飛び回る飛行艇。
お前はまだ空を見上げているだけなのか。この大空を飛びたくて生まれてきたんじゃないのか。そう心に訴えかけてくる。
この時代を彩る、King Gnuらしさ全開の名曲である。
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