椎名林檎「公然の秘密」。
どこまでも色っぽくて香り高い。ドラマ「時効警察はじめました」の主題歌で、ベストアルバム「ニュートンの林檎 ~初めてのベスト盤~」にも収録される大人な恋の歌です。
YouTubeではMVも公開中。
椎名林檎 - 公然の秘密 椎名林檎 より
豪華面々によるパフォーマンスは必見です。
この記事ではその歌詞に注目して、楽曲を紐解いていければと思います。
歌詞解釈
一曲を通じて椎名林檎さんは”恋”を香水のように扱っており、恋愛対象となる彼の魅力が”匂い”として漂っています。
1番
どこからか漂う 美味しそうな匂い
逃れられないの一旦嗅いだら最後よくらくら鎧跟けちゃう 拐かす匂い
秘密という名で評判のフレーバーよ
公然の秘密 作詞 椎名林檎
いったん落ちてしまえば、決して逃れられないのが恋というもの。さらにここでは”秘密”というフレーバーが彼女を魅了しています。世間には彼の魅力が認知されていない、そして自分が恋をしていることは誰にも悟られていない、という状況がよろけてしまうほど魅力的なのです。ひょっとすると禁断の相手との恋なのかもしれません。
「拐かす」は「誘拐する」ことを指す言葉。
「鎧跟けちゃう」は当て字で「よろけちゃう」。鎧は「遊び相手」、「跟ける」は「後をこっそり追う」という意味があるので秘密の恋を暗示しているものと思われます。林檎節炸裂。
秘すれば花ね本当噂通りで堪んない
自分を誰し込んだ本体突き止めたい
公然の秘密 作詞 椎名林檎
「秘すれば花」は能の世界の言葉で、「予想外の展開に人は感動するものであり、それを予想させないように演じるのが芸である」ということ。彼の隠された魅力が「秘すれば花」の言葉通りそそられるものだった様です。
「誰し込んだ」も当て字で、本来は「誑し込んだ」。「たらしこんだ」と読み、「年若い異性をうまくだますこと」を指します。何が自分を恋に陥れたのかを突き止めたい、という願望。どんどん恋の沼へと落ちていく女性の姿が目に浮かびます。大人な歌詞。
ほらご覧隠したってみえみえ…嘘を
乗せたトップノートああ近いようね
初々しいバニラ そう甘やかでしょ
公然の秘密 作詞 椎名林檎
曲名の「公然の秘密」の意味は、「秘密であることにはなっているが、広く世間に知れ渡ってしまっていること」。
秘密のフレーバーが漂う恋ではあるものの、実際傍から見れば彼の魅力はみえみえなのです。きっと彼女だけのものではありません。彼女の恋もきっと公然の秘密。ただ、秘密ということにして彼を自分だけのものにしてしまいたい彼女。すっかり彼の魅力の虜です。
「トップノート」は香水をつけて最初に感じる香りのこと。”秘密”という嘘を乗せた恋は、はじめはバニラのように初々しく甘い、というわけ。
間奏前の林檎さんの「ギター」という掛け声がまたこの上なく艶っぽいですね。
2番
とろとろ蕩けちゃう 抱え切れぬ恋
秘密といういま流行のフレーバーの
公然の秘密 作詞 椎名林檎
秘密という香り漂う、抱えきれない恋。抱えきれていないので、どこか恋心が膨れ上がっていくことに不安を感じているようにも見受けられます。禁断の恋であるとするならば、抱えきれない恋心は死活問題。どこかで歯止めをかけなければなりません。
主に成り果てて噂立ったら堪んない
自分を化かし通し首尾よく諦めたい
眼は逸らしたってばればれ…悔いを
残すラストノートああスパイシーね
もどかしいシナモン ほろ苦いのよ
公然の秘密 作詞 椎名林檎
”秘密” という体でやっているので、恋心が公然の事実となってはなりません。
だから何とか恋心を断ち切り、自分を「化かす」すなわち判断力を鈍らせ通して、最後はうまいこと諦めてしまいたいのです。なんとか恋の沼から抜け出したい。
そしてなんとか別れを告げたであろう彼女。
しかし、スパイシーなラストノートがまだ彼女を魅了し続けます。もどかしくほろ苦い別れ。どうも未練を断ち切ることができません。
そして実はラストノートは香水の香りの中で最も持続時間が長い香り。まだまだ恋の沼から抜け出せやしません。
騙し騙され未来はどうなっちゃうの
罰は受けるハッピーエンドをお願い
公然の秘密 作詞 椎名林檎
恋の沼から抜けられず、彼に騙し騙され未来は不安だらけ。このまま恋心を抱き続ければ、もう自分がどうなってしまうのか想像もつきません。
しかし、結局彼女が最後に望んだのは「罰は受けるハッピーエンド」。
すなわちこの恋の果てにどんな罰を受けることになろうと、彼と結ばれる未来こそが彼女の望みなのです。未来がどうなろうと彼を手に入れたい。首尾よく諦めることをついには放棄してしまいました。
頭まで微熱持ってめろめろ…ジゴロ
憖そそらないで存在さえもう罪深い
チョコレート 芳しいのよ厭だ厭だ
見付かんないで誰にも…フェロモン
遍く振り撒いて皆を誘き寄せないで
いつも見張り続けて独り占めしたい
公然の秘密 作詞 椎名林檎
「ジゴロ」は「女性から貢がれて生活する男、またそれくらい魅力的な男性」のこと。
「憖」は「中途半端に」。すっかり彼女は男性に夢中です。
たとえこの”秘密”の恋が”公然の秘密”であったとしても、まだまだ男性を独り占めにしていたい。彼の魅力が公然のものであっても、見張り続けて自分だけのものにしたい。もう彼女の恋心は止まりません。
「嫌だ嫌だ」ではなく「厭だ厭だ」と漢字を当てるだけで、不思議なもので途端に色っぽくなっているように感じます。
抜けることなどできない大人な恋の歌。圧巻です…
どんどん艶美になっていく椎名林檎。まだお聴きでない方は、ぜひご賞味を。
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