King Gnu「Sorrows」。
"sorrow"は和訳すると”悲しみ”。残酷な現実に抗い、この世界を愛そうと唄うKing Gnuの名曲です。理想論ではない、彼ららしいポジティブなメッセージが込められた楽曲。
ここではその歌詞を勝手ながら考察していきたいと思います。
歌詞解釈
解釈に先立って触れておきたいのが、彼らのバンド名の由来。
King Gnu は“Gnu=ヌー”が巨大な群れを成す習性を持っており、自分たちも老若男女を巻き込み大きな群れになりたいという思いから名づけられています。
この楽曲の主語 ”I”はどうやら”King Gnu”そのものを指している様に感じます。
1番
優しい嘘をついてくれよ
現実は残酷だもの
酔いどれ踊れ
全てを忘れるまで
強がり笑うだけ
現実を忘れ、強がり笑おう。
”現実をどうにか変えてやろう”といった類の歌詞では全くなく、”残酷な現実”が確かに存在しているところにKing Gnuらしさがあります。現実は変えられるものではないし、決して明るいものではありません。痛いほどに現実を見つめ、だからこそ「全てを忘れるまで強がり笑うだけ」と歌っているのです。
“Why don't you come back to me?”
避けようのない痛みを
二人分け合えるよ“cause I know you're lonely like me.”
こびり付いた悲しみを
拭い去れるの?
“Why don't you come back to me?”は和訳すると ”僕のもとに戻ってこない? ”、“cause I know you're lonely like me.”は ”だって君が僕みたいに孤独だと知っているから” となります。
”you”が何を指しているのか、というのが難解ですが、ここでは”聴き手”に対し唄っているのだと考えるものとしましょう。
現実は残酷で、痛みや悲しみはいつだって付きまといます。
そんな感情を共に分け合おうじゃないか。ともに強がり踊ろうじゃないか。
彼らは聴き手をヌーの群れへとへ導きます。
”だって君も孤独でしょ?” と。
2番
流離え友よ
生まれては死ぬだけの輪廻の中を
終わりのない旅路を
進め 夜が明けるまで
奥歯を食いしばって
夜が明けるまで、奥歯を食いしばって彷徨い歩け。
時代を生きる聴き手へのメッセージ。
ここでも常に歌詞の裏側に ”どうしようもない現実” が横たわっています。人生は所詮生まれては死ぬだけで、ゴールなんか無い旅路。光のない夜の真っただ中であると。
彼らの歌詞は痛いほどに現実を見つめているのです。
“Why don't you come back to me?”
ささやかな喜びを
二人分け合えるよ“cause I know you're lonely like me.”
この溢れ出す思いを
伝えに行くよ
共にささやかな喜びを分け合おう。この思いを伝えに行くよ。
暗い現実の中でも彼らは前を見据えています。
取るに足らないような喜びだって分け合おう。彼らの楽曲における最大限のポジティブさではないでしょうか。
everytime,
I feel as one.
sometime,
We feel as one.
ささやかな人生を
愛せるのならばeverytime,
I feel as one.
sometime,
We feel as one.
信じていたもの全てを
手放したっていいんだ
英文は直訳すると”私は常に一つであるように感じ、時に私たちは一つであるように感じる”。意訳すれば ”いつだって孤独だけれど、時に私たちは一つだと感じられる” といったところでしょうか。
集まって痛みや喜びを分け合おうとしたところで、所詮私たちは一人と一人。孤独なものは孤独です。残酷な現実。
しかしそれでも、時には皆が一つになり、孤独を感じない瞬間を迎えられるでしょう。
こんな人生を愛せるかもしれない。
そのためなら信じたものなんて手放してやろうではないか。
なんとも力強いKing Gnuの信念が窺えます。この人生を愛せるんだったら、それ以外のことはもうどうだっていいのです。
“You always stay in my mind.”
“I want you stay in your mind.”
”あなたはいつだって私の心の中にいる”
”私はあなたに、あなたの心の中にいてほしい”。
恐らく"want you"と"stay"の間に”to"が省略されています。
この部分がなんとも抽象的で解釈が難しいです。意味をそのまま取ってしまうと、”あなた”を拒絶しているわけでここまでの歌詞と相反してしまう。”I want to stay in your mind." ならスムーズにつながるのですが…
ここでは個人的な解釈として、この英文は彼らの過去の信念を歌っているのではないか、という考察を提示しておきたいと思います。
「信じていたもの全てを 手放したっていいんだ」の「信じていたもの」の一つ。
過去には「あなたにはあなたの心の中にいて欲しい」と他人を拒絶するような考えを持っていた。
近年の人と人との繋がりの希薄化を踏まえた上で、King Gnuはこの”“I want you stay in your mind.” という考えを手放したのだと考えれば、このあとのラスサビの歌詞にスムーズにつながります。
“Why don't you come back to me?”
この素晴らしき世界を
二人分けあえるよ“cause I know you're lonely like me.”
この胸の悲しみと
共に生きてゆくよ
”“Why don't you come back to me?”、”僕のもとに戻ってこない? ”。
戻ってこない?と歌うのはもともと一緒にいたから。“You always stay in my mind.”だったからではないでしょうか。
また前みたいに、喜びや痛みを、この素晴らしい世界を分け合っていこうじゃないか。この残酷な現実の中で、悲しみを抱きながらも人生を愛していこうじゃないか。
そんな前向きな思いが込められた、最高にクールな彼ららしい楽曲です…!
まとめ
この曲は平たく言えば、「悲しみを分け合おう」という歌。「嘘だっていいからこの世界を愛そう」という歌。「分け合った悲しみと共に生きていこう」という歌。そこにはなんの理想論も夢も存在していません。
現実はいつだって残酷だ。優しい嘘をついてくれ。
この人生を愛せるのならば、信じたもの全て手放したっていい。
彼らの楽曲は、痛いほどに現実を見つめています。避けようのない痛み、拭い去れやしない悲しみ。現実はいつだって残酷なのです。
だけどそれがどうしたんだ。嘘だっていいじゃないか。強がりで何が悪い。
このささやかな人生を愛そうではないか。
そう彼らは高らかに謳い上げています。
そして聴くものをヌーの群れへと引き入れるのです。だってあなたも孤独だって知ってるから。共にこの痛みを、悲しみを分け合おうではないか、と。
激動の時代の中で彼らは、強大なヌーの大群を作ろうとしています。現実に抗い、終わりのない旅路を突き進む群れを。
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