やせっぽち寄稿文

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【椎名林檎/浪漫と算盤】歌詞の意味を考察 宇多田ヒカルとのデュエットに込めた想いとは。

椎名林檎「浪漫と算盤」

ベストアルバム「ニュートンの林檎 ~初めてのベスト盤~」への収録が決定している、盟友・宇多田ヒカルさんとのデュエット曲です。お二人が共演するのはアルバム「Fantome」の収録曲「二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎」以来3年ぶり。


椎名林檎と宇多田ヒカル - 浪漫と算盤 / Sheena Ringo & Hikaru Utada- The Sun&moon 椎名林檎より

 

いかにも椎名林檎さんらしいタイトルの楽曲ですが、一体彼女は盟友とのデュエットで何を歌ったのか。ここではその歌詞に注目して、楽曲を紐解いていければと思います。

 

タイトル「浪漫と算盤」の意味

タイトル「浪漫と算盤」。なんでも宇多田ヒカル氏が知人と「それはゆみちん(椎名のこと)ならうまいこと書きそう」と話していたテーマが「ロマンとソロバン」で、それを今回林檎氏が楽曲に仕上げたとのことです。

「浪漫と算盤」。それはつまり「ロマン」「ソロバン」の対比を示していて、「夢や理想を追い求めること」(ロマン)と「利益や成功を追及する経済的な営み」(ソロバン)という、相交えない二つの事柄を提示しているように思います。

 

これを椎名林檎氏と宇多田ヒカル氏の視点に置き換えるならば、それは楽曲の芸術性の追求(ロマン)と音楽家としての利益・成功の追求(ソロバン)。

自信の信念・理想を貫き、信じた音楽をひたすらに作り続けることも大切なのでしょうが、それが世の中に受け入れられるかというのはまた別の話です。

ディープに作りこんだ楽曲が大衆からは評価されず、自己満足のような状態に陥ることだってあるでしょう。ロマンの追求故に音楽家としてこれ以上成功できないかもしれません。

音楽を創造する芸術家でありながら、聴き手がいて初めて成り立つ商売人である、というある種の矛盾を抱えた彼女たちの在り方を歌った楽曲である、と言えるのではないでしょうか。

 

 

「浪漫」の追求

主義をもって利益を成した場合は
商いが食い扶持以上の意味を宿す
義務と権利双方重んじつつ飽く迄 
両者割合は有耶無耶にしていたい

玄人衆素人衆皆の衆賛否両論
頂戴 置きに行こうなんぞ野暮
新しい技毎度繰出したいです

浪漫と算盤 作詞 椎名林檎

「主義をもって利益を成した場合は 商いが食い扶持以上の意味を宿す」

平易に言い換えるならば、「自身の信念により利益が出るのなら、商売が食費稼ぎ以上の意味を持つ」といったところでしょう。商売でただ食費を得るだけでなく、自身の主義・理想をも追求できる。芸術家として財を成すことの面白さです。

「義務と権利」

音楽家として聴き手を満足させる”義務”とロマンを追及する”権利”。それぞれ”ソロバン”と”ロマン”の言い換えだといえるでしょう。

どっちが大事、なんて結論は出さないままで。

賛否両論いただきながらも、置きにいくなんてつまらないことはせず、私は新しい技を繰り出していきたい、と。

経済的・社会的名声や利益に縛られず、ひたすらに浪漫を追い求める姿勢というのはきっと芸術家たるものの性というものなのではないでしょうか。

 

 

「算盤」の必要性

宇宙を因数分解したとこで自由と
孤独だけが待っているんでしょう

玄人で素人で労働者で生活者の侭
おもしろおかしく居させて
煩わしい役毎度請け負いたいです

浪漫と算盤 作詞 椎名林檎

 その一方で、ロマンを追い求めることはいつだって孤独です。

「宇宙を因数分解したとこで自由と孤独だけが待っているんでしょう」

漠然とした表現ですが、ここでの「宇宙」は「浪漫」の言い換えではないか、と個人的には捉えています。未知にあふれる宇宙は人々のロマンの塊。宇宙を構成する全てを解き明かすことは途方もない労力を要するはずです。

しかし人々の信念を追及し、そのすべてを紐解いたとて何が得られるわけでもないわけで。ただそこには「自由」「孤独」が待つだけなのです。

同様に、音楽家として自身のロマンを追及することも自由で孤独。その過程はきっと誰にも理解されないだろうし、聴き手に受け入れてもらえるとも限らない。ファンを置いてけぼりにしてしまうかもしれないし、万が一真理にたどり着いたとて、それ以上はロマンの存在しない「自由」「孤独」が待っているのでしょう。

 

だからいつだって「労働者」で「生活者」のままでありたいと願うのです。表現者として素人だ玄人だという階段を上っていきたい一方で、地に足つけて生きていきたいと思う。労働者として、生活者として、いつだって算盤抱えて生きていたいのです。

 

 

きっと、そう浪漫抱えたら算盤弾いて
両極のど真中狙い撃てお願い勇気をくれ 

浪漫と算盤 作詞 椎名林檎

 浪漫と算盤。

ミュージシャンであり、それぞれに曲を聴いてくれるファンがいて、養うべき家族がいる椎名林檎と宇多田ヒカル。芸術家であり商売人である彼女たちの葛藤です。

 

 

 

答えはお互いの存在

そんな彼女たちに答えを与えるのが、お互いの存在でした。

虚しくとも 貴方を思うたび
僕は許されて行く 夢と現を結わえて

(中略)

答え合わせ 貴方を知るほど
僕は正されて行く 捨てたものじゃない
ただ生きようと 

浪漫と算盤 作詞 椎名林檎

 「貴方を思うたび僕は許されて行く 夢と現を結わえて」

浪漫と算盤、その両方を持ち合わせようとする私を許してくれるのが、夢と現を結びつける”貴方”の存在。夢と現、理想と現実、浪漫と算盤。その両方を追い求めながらも輝いている”貴方”がいるのです。

 

それは椎名林檎における宇多田ヒカルなのかもしれないし、その逆も然りなのかもしれません。椎名さんはこの曲に関して、「唄うのにやや照れました。」とコメントを残しています。何故林檎さんはヒカルさんとのデュエットにこの曲を選んだのか。それはお互いが、お互いを”貴方”と重ねて歌えるからではないでしょうか。

 

浪漫と算盤のそのど真ん中を歩み、輝かしい功績を収め続ける”貴方”がいるのです。世の中まだまだ捨てたものではありません。それこそがこの問いの答えで、浪漫と算盤、その両方を抱えたままに歩き続けることはきっと可能なのです。

 

「ただ生きようと」

ただ自分らしくあろうと思える理由がそこにはあります。

 

 

『なお、二十年間、頑なに「国産採れたて」に拘って参りましたものの、これからさきはもっとのびのび自由奔放に書きたいです。どうぞ今後なお一層、よろしくお願い致します。 』

林檎さんはこの楽曲によせてこのようにコメントしています。今後彼女がどんな音楽を生み出していくのか。活動からますます目が離せません。

 

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